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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)9832号 判決 1976年11月19日

原告

日魯工業株式会社

右代表者

中野昭雄

右訴訟代理人

和田隆二郎

外二名

被告

藤野忠臣こと

藤野忠夫

主文

被告は、原告に対し金七六六万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年一二月四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

原告が、本件特許権について、その設定登録の日である昭和四五年三月五日以降その特許権者であつたことは当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、原告が訴外中野物産株式会社に対し、昭和四七年一〇月一一日、本件特許権を譲渡すると同時に同会社から本件専用実施権の設定を受け、同年一二月一一日右譲渡及び本件専用実施権設定の各登録を経由し、右日時以降その専用実施権者であることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

次に、原告と訴外会社との間で、昭和四六年一二月一日、本件実施契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

ところで、被告は、本件実施料が昭和四七年六月以降、本件梱包機一台当たり金五、〇〇〇円に減額された旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は理由がない。

そうすると、訴外会社は、原告に対し、本件実施契約に基づき、本件実施契約締結以降その製造販売に係る本件梱包機について、その台数を報告し、かつ、一台当たり金一万五、〇〇〇円の割合による実施料を支払うべき義務を負担したものというべきである。

そして、訴外会社が、本件実施契約に基づき、本件実施契約締結時以降本件梱包機を製造販売してきたことは当事者間に争いがないところ、<証拠>を総合すれば、報告は、訴外会社の一社員ではあつたが、訴外会社の代表取締役瀬下順弘の従弟である関係から、かねてから、右瀬下及び専務取締役窪田己三夫らと共に事実上、訴外会社の経営者の一人として、その経営全般にわたつて関与し、本件実施契約に基づく原告に対する本件梱包機の製造販売台数の報告及びその実施料支払いの職務をも担当していたものであること、ところで、被告は、右瀬下と相談のうえ、あるいは自らだけの判断で、原告に対し、本件実施契約に違反して、訴外会社が製造販売した月々の本件梱包機の台数を過少に報告し、報告しない台数についての実施料の支払いを免れようと企図し、本件実施契約締結の日である昭和四六年一二月一日から昭和四九年二月二八日までの間に、本件実施契約に基づき本件梱包機一、〇二六台を製造販売したのに、右台数のうち五一一台について原告に対する毎月の報告をしないで、一台当たりの実施料金一万五、〇〇〇円に右台数五一一を乗じた同台数についての実施料合計金七六六万五、〇〇〇円の支払いを免れたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告は、原告に対し、訴外会社が製造販売した本件梱包機の台数を過少に報告し、報告しない台数についての実施料の支払いを免れることが、原告の訴外会社に対する右実施料の支払請求権を侵害するものであることを知りながら、本件梱包機五一一台について、その台数の報告をしないでその実施料合計金七六六万五、〇〇〇円の支払いをせず、原告に訴外会社から受けるべき右実施料の支払いを受けられなくして原告の右請求権を侵害し、これにより原告に右実施料相当額の損害を蒙らせたものというべきであるから、被告の右行為は、原告に対する不法行為を構成するものといわなければならない。

従つて、被告は、原告に対し、右損害金七六六万五、〇〇〇円を賠償すべき義務があるものというべきである。

ところで、被告に、訴外会社の原告に対する相殺の意思表示により、あるいは原告と訴外会社との間の和解契約の成立により訴外会社には原告主張のような実施料の不払いはないから、被告には不法行為の責任はない旨主張する。しかしながら、訴外会社が原告に対し被告が主張するような損害賠償請求権を取得した事実については、成立に争いのない乙第二号証をもつて、これを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、また、被告が主張するような和解契約が成立した事実については、これを認めるに足りる証拠はないから、被告の右主張は理由がない。

以上のとおりであるから、被告に対し、右損害金七六六万五、〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の後であつて、原告の請求にかかる昭和四九年一二月四日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の本訴請求は、理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(佐藤栄一 清永利亮 安倉孝弘)

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